第一話
最近ゲームセンターでバーチャルゲームが流行っている。自分自身がゲームの主人公となり、ゲームをプレイするというシステムだ。
中でも、最も流行っているのがV・F・G(バーチャル ファイティング ゲーム)だ。
この話は、そのV・F・Gに魅入ってしまった者達の話である。
「おーい、和[やまと]ー!!」
和と呼ばれた青年は振り返る。この物語の主人公、名月 和(17)である。
彼を呼んだ人物は、平島 柊平[しゅうへい](17)だ。
ここから先は、和青年の視線から見るとしよう。
俺に向かって走りながら、柊平が手を振っている。しかし、このままでは……。
「柊平、走ってこなくていいから!でないと、また……やっちまったか。」
予想通り、俺のところまであと2mという地点で、柊平は目の前から消えた。顔を下に向けると、柊平の後頭部が見えた。
両手を挙げ、片足を折り、倒れている。
つまりはこけたのだ、派手に。
いつものように、俺はその場にしゃがみこみ、柊平を起こす。
服に付いた土を掃い取ってやる。
「毎度毎度、よくやるよ、まったく。……大丈夫か?」
「へへへ…大丈夫さ!もう慣れたからね。」
顔にかすり傷を作っていながらも、柊平は笑って言った。
俺はこの時、その平和な日々がいつまでも続くと思っていた。だけど、その平和はあるモノによってぶち壊されてしまった。
「和、今日こそは一緒にやりに行くよな!?」
ずんっと真面目な顔を近づけて柊平は言った。何のことかは分かっている。V・F・Gの事だ。
柊平と他の友達は、ゲームセンターに出た初日から一ヶ月ほど、ずっとプレイしているらしい。
そして半月くらい前から、俺もそれに誘われている。
「悪いけど、俺はやめとくよ。いつもより帰りが遅いと、母さんが心配する。」
こんな事を言っているが、別に俺はマザコンなわけじゃない。ただ、父親が不在の時が多い我が家に、今までほぼ一人で育ててくれた母親一人しかいないのが心配なだけだ(作者的にはマザコン入ってると思う)。
まぁ、父親がいても結果が変わる可能性は低いが……。
「いーや、今日は無理やりにでも連れて行くぞ……集合!!」
「は?集合って、おい……あ、お前ら!!!」
柊平の掛け声によって現れたのは、オチャラケ仲間4人。全員が嫌な笑みをこぼしている。柊平が指をパチンと鳴らした途端、4人が両手両足にしがみついた。
暴れて逃げようとしても、これでは無理だ。
そして、そのままの状態で歩き出した。
なかなかのチームワークだ。いや、そんな事より……。
「離せー!!俺は帰るんだー!!離せぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺の叫び声は、校内に空しく響いた。哀れんでか、けなしてか、一羽のカラスがカァーと一声鳴いた――――。