ここはとある街のゲームセンター。結局、俺は柊平達に連れて来られてしまった。
男子高校生4人に手足を押さえられて、逃げられるわけがない。……プロレスラーや相撲取りは除くが。
「何やってんだよ、和。お前の順番だぞ、早く来いって。」
自分の名が呼ばれ、ゆっくりと顔を上げる。共用施設にあるビデオ鑑賞に使うような個室の一つから、柊平が顔を出し、手で『来い』という動作をしている。
子供が親を呼ぶような仕草だが、こちらとしては非常に恥ずかしい。平静を装い、俺は柊平が入っている個室へ向かった。
俺はすでに、逃げる事を諦めていた。そして、付いて早々20分も待たされたような人気ゲームだ。少し…ワクワクしていた。
個室の中は人が二人は入れるくらいのスペースがあり、薄暗かった。光っているのは画面だけ。
俺は開いていた柊平の右隣に座った。「新規の場合は、必要事項を登録して始めるんだ。登録って言っても、メールアドレスとキャラの選択、パスワードだけだけどな。簡単だろ?」
柊平の説明を聞きながら、俺は必要事項を入力していった。パスワードは「158201」。
俺はローマ字をパスワードにするのが嫌いだ。ついでに、数字は適当に思いついたもののため、同時に携帯電話のメモ帳にパスワードを保存しなければならない。
これがなかなか大変だったりする。しかし、俺はなんでもないように振舞いながら、どんどん進めていった。「……これでいいか?」
全て入力し終わった俺は、念のために柊平に確認した。返事はOKだった。
そして、右足、左足、腰、右手、左手、頭の順に、たくさんのコードが付いた機械を体に取り付けていった。少し重いが、座ってやるから問題はないらしい。
「んじゃ、頑張って来いよ。」機械を装着し終えた俺に、柊平が話しかけてきた。俺はその言葉に答えるかのように、右手の親指を立てて、こめかみ辺りのスイッチを押した……。
俺の周りは流星が流れているようだ。体も軽い。
でも、なんとなく恐ろしく感じる。そして、懐かしくも感じる。
なんと表現すればいいのだろうか。懐かしく、とても温かいものが、俺を包み込んでいる。
ゲームの世界に入らないように、止めようとしている。これから起こることから、俺を守ろうとしているのかもしれない。
その何かに、不思議と不安はなかった。俺はコレを知っている。
この人を知っているのだ。遠い昔の記憶に、この温かな感じがある。
あれは…確か……。ダメだ、思い出せない。
とても…とても大切な思い出だった気がするのに。たとえ何があっても、俺とあの人の絆は消えないっていう思い出だったはずなのに…。
あの人?…あの人って…誰だ?
そんなことを考えている間に、俺はゲームの世界に入った――――。