第三話

 

 


どう見ても、普通のビル街。

渋谷辺りにでも行けば、同じ風景を見ることができそうだ。

でも、現実ならいるはずの人がいない。

車はあってもすべて止まっていて、運転手らしい人物はいない。

ウィンドウが並ぶ道を歩いて、今の自分の姿を見る。

柊平が説明の時、オススメしたキャラとは正反対のキャラクターを選んだ。

現実の自分によく似ている、強そうには見えない男子高校生。

紺色のブレザーに、白いカッターと緑のネクタイ。

ズボンは黒色で、髪と瞳はこげ茶色。

少し耳にかかったくらいの髪の長さ。

そして、俺によく似た顔立ち。

このゲームを作った人物は、俺のことを知っている人なのだろうか。

そう思うほど、俺にそっくりだ。

少し、気味が悪かった。


「いよう。名前がないのか…お前新人か?」


突然、後ろから声をかけられた。

この世界には人はいないはずだ、ゲームプレイ者以外は…。

敵だ、と、俺は身構えた。

ゆっくり振り向いてみると、路上の段差に座っている人物が一人。

柊平が勧めたキャラクターの一つだ。

筋肉質で、いかにも強そうな印象を受ける。

…率直な感想が「ムキムキ」だ。

ムキムキの頭の上に、何か文字が浮かんでいる気がするが、気のせいだろう……。


「おい、聞いているのか?…っとと…。」


急に立ち上がったためか、ムキムキはよろめいた。

その体格のためだろう。

瞬発力が極端に低そうだ。


「俺は今日、ダチに無理矢理やらされたんだ。だから何も分からないんだけど……。」


「名前がないってことは今来たばっかりのようだな。CN[キャラクターネーム]の入力方法、分かるか?」


なんだ、こいつ。

ただの親切心で俺に近づいたのか。

それとも、何かたくらんでやがるのか。

…だめだ、さっぱり分からない。

とりあえず、利用できるものは利用して、さっさとゲームオーバーになるか。


「いや、分からない。教えてもらえないか?」


「いいぜ。胸の高さに手を持っていって、一度だけ手を叩けばいい。そしたらキーボードが出てきてそれで入力し、エンターキーを押せば完了だ。」


「へぇ……。」?


とりあえず、あれこれ考えるのも面倒だ。

やってみよう。


手を胸の高さに挙げ、一度だけ手を叩く…。

ぱんっと叩いた音が響くと同時に、目の前に半透明のキーボードが現れた。

台も何もないのに、ピタッと俺の手の位置で止まっている。

俺が手の高さを変えると、キーボードの高さも変わる。

…便利だ、と思った。


CN…か…。

少し迷ったあと、一つの名前を打ち込んだ。

そして、エンターキーを押した。


「ほぉ、性別が分かりにくいCNだな。でも、俺は結構好きな感じの名前だ…。」


「そりゃど〜も。」


俺がこれから名乗る名前。

今まで名乗ってきた名前…。

俺のCNは…。

 

 


―――『ナツキ』―――

 

 

 

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