「無事(?)にCNも登録したことだし、はれて君もVFG参加者の仲間入りだ。ナツキ君。」
拍手とともに、背後から声が聞こえた。…そういえばいたんだっけ、ムキムキ。
「ありがとよ。あんたのおかげだ…。この借りは、そのうち返すよ。」
俺はムキムキの方を肩越しに見ながら言った。背中を向けながらも、隙は見せていない。
例え、こんな風にいろいろしてくれても、敵ということには変わりない。
…いや、わざと隙を見せてやられて、ゲームオーバーになった方が楽か…。
そう考えた俺は、ムキムキに体ごと向いた。
少しビックリした表情のムキムキが見えた。
それはそうだろう。
隙を見せていなかったやつが、突然無防備になったのだから…。
「で、あんたはなぜここにいる?」
ずっと疑問に思っていたことを、ムキムキにぶつけた。
「あんたってなぁ…。俺には『テン』っていうCNがちゃんとあるっつーの!ほら、俺の頭の上に、文字が浮いてるだろ?それがその人物のCNだ。よく覚えておけよ。」
ああ。会ったときに見たやつがCNなのか。
気のせいじゃなかったのか……。
「わかった。今度から注意するよ。で、さっきの質問の答えは?」
「この辺には、俺と同じくらいのやつがうようよしてるから、相手探してたんだよ。そしたらナツキ君、君が通りかかったということだ。」
なるほど。じゃあ戦う気満々ということか。
だったら……。
「じゃあさ、俺の相手してくれない?暇だったらでいいけど。どんな感じなのかよく分からないし。」
俺の提案に、とくに気にした様子もなくテンは言った。
「手合わせならいいぜ。初心者とマジバトルは、流石にできないからな…。手合わせっていうのは、普通のバトルと違ってお互いを倒さないのがルールだ。それでもいいか?」
「へぇ。じゃあ、それよろしく。」
俺がそう言うと、テンは突然自分の左手のひらに右拳をたたきつけた。それと同時に、テンの目の前に三メートルくらいはある長い棍が現れた。
その棍には装飾がされていて、打撃に強い印象を受けた。
あれは確か、中国の兵士が使っていた堅い木を削って作る単純な武器だ。テンはそれを軽々と振り回し、正面で止め、言った。
「これが俺の武器『木鉄長棍[ぼくてつちょうこん]』だ。普通の棍とはひと味違うぜ。じゃあ、さっきの俺の真似してお前も武器出せよ。」
俺は言われたとおりテンの真似をした。すると、俺の目の前に刀が現れた。
この刀、少し前に図書館の本で見た。
平家に代々伝えられた名刀で、刀身の先端から半分くらい両刃になっていることが特徴。
源氏との最後の合戦の壇ノ浦で行方不明になったと言われる。
幻の刀『小烏[こがらす]』。
「これが、俺の武器……。」
小烏に見入っていると、目の前にいたテンが表情を変えて俺に言った。
「おい、お前。やっぱり手合わせはなしだ。お前を殺させてもらう。」
テンの様子、態度が急変した。いきなり…俺を殺す?
どういう事だ?
わけが分からない…。
俺たちは、しばらくその場から全く動かないで、お互いを見続けていた――――。