少しの沈黙のあと、俺は口を開いた。
「なんでだよ。いきなり、手合わせはなしだって?あんたがそう言ったんじゃねえか。なのに、なんで…。」
いや、よく考えたら、その方が俺にとって都合がいいのか?さっさとやられた方が…。
「お前のその武器。俺はそれに用があるんだ。このゲーム中で最強の者が持つ剣を、何故新人のお前が持っている。」
はあ?なんだ、それ。
そんなもんになった覚えはない。
何かの間違いじゃないのか?
いや、でもこんな特徴のある刀、間違えるはずないし…。
「まぁ理由はよく分からないが、その武器は俺がもらう。その刀を持つことは、このゲームでの最大の名誉だからな。」
そう言ってテンは俺に向かって棍を振り下ろした。反射的に小烏でそれを受けた。
思った通り、打撃力が強い。
小烏を伝って振動が腕まで響いてきた。
テンの攻撃はそれくらいでは止まらなかった。
攻撃後、即座に体の向きを変え、棍の反対側で攻撃してきた。
それをギリギリで交わし、テンとの距離をとった。
なんだろう。体が勝手に俺を守ってくれている気がする。
そういえば、このゲームには自動ガードシステムっていう物があって、初心者でもまともなバトルができるようにプログラムされて
いるんだっけ。
柊平に聞いたような気がする。
そうだとしたら、すごく助かる。
どのくらい戦っていただろうか…。
気が付けば二人とも気が上がるほど疲れていた。
今までそこまで重みを感じなかった小烏に、相当な重みを感じる。
しかし、それは向こうも同じだ。
その証拠に、棍を構える高さが最初より大分下がっている。
それに、俺より体がでかい分だけ体力の消耗も激しいはずだ。
しかし、そろそろ終わらせないとこっちもやばい。
…あれ?
なんで勝とうとしてるんだ、俺。
そんな自分に苦笑する。
「なに…ぼーっとしてんだよっ!」
そんなことを考えていたら、テンが棍を振り回してきた。空を切って、左から棍が来る。
避けないと…。
だめだ、体が動かない。
ガードシステムも作動する気配もない。
…やられる!?
少しの間、何が起きたのか分からなかった。
体が勝手に反応した。
左から迫ってくる棍をしゃがんで避け、そのままテンの喉をめがけて思い切り右腕を突き出した。
小烏を持っていた右腕を…。
世界が、赤く染まった。
小烏は無駄なくテンの喉を貫いた。テンの血が…小烏を伝って地面に落ちる。
赤い水たまりが、徐々に広がっていく。
血が、音もなく落ちていく。
赤い雫は、俺を我に返らせた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
体が震える。寒い……。
テンの体はゆっくりと大地に横たわり、動かなくなった――――。