第六話

 

 


俺は…何をした?

なぜテンは倒れたんだ。

少しずつ落ち着いてくると、俺が今したことを理解し始めた。

おれは、この手で…テンの喉を貫いた。

人を……殺した。


「あ…あぁ…!!殺す気なんてなかったんだ…。嘘じゃない!」


テンの傍に座り込み、俺は呻いた。


「ばーか。何焦ってんだよ…。これはゲームだ。ただゲームオーバーになって現実に戻るだけなんだから。」


…生き…てた?

ようやく俺は、この世界はゲームの中ということを思い出した。

そうだった。

これは、ゲームなんだ。

でも、あの手応え、温かさ、血の臭い。

すべて本物みたいだった。

きっと…いや、絶対痛みも本物だろう。

だとしたら今テンは…この人は苦しんでいるはずだ。

俺のせいで……。


テンが呼吸をするたびに、ヒューヒューと音がする。

小烏によって空けられた喉から空気が漏れているのだろう。

喉からはまだ、溢れるように血が出てきている。

血が落ちた地面は、まるで飲み込むかのように少しずつ血を吸っている。

吸った部分は赤黒くなっていて、なんだか生々しい。

俺の手も、服も、顔も、小烏も、テンの血で赤く染まっている。

俺の心[なか]は、人を傷つけた恐怖と、こんな事をしてしまった自分への嫌悪感でいっぱいだった。

偶然か必然か…、目の下に付いた血が頬を伝い、血の涙のようにこぼれ落ちた。

俺はやってはいけないと分かっていたのに、テンの喉から小烏を抜いた。

小烏という栓がなくなった今、その溢れ出る血をせき止めることはできない。

小烏からまた血の雫が落ちた。

小烏が、泣いている……そう思った。


俺が絶望していると、テンが話しかけてきた。


「もう少し、時間がある…ようだな。聞きたいことがあるんだ。」


「……大丈夫…なのか?俺が言うのもなんだけど…。」


「あぁ、気にするな。お前はただ、自分の身を…守っただけなんだからよ…。それより、お前…剣道でもやっていたのか?さっきの
突き…すげーよかった。」


「…中学の時、剣道部だった。二年の時に全国大会一位になって以来、ずっとやってなかったけど…。得意なのが突きだったけど
、危ないから本当に負けると思ったときにしか使わなかったんだ。」


「じゃあ、その幻の突きを出させた俺は、すげーって事だな。」


軽く笑うテンの声が、静けさの中響く。

少ししてからテンの体が透けてきた。

多分、ゲームオーバーになるとこうなるのだろう。


「今回はお前の勝ちだ。でも次に会ったときは、絶対俺が勝つからな。」


そう言い残してテンは消えた。

追うように木鉄長棍も消えた…。

 

 


残されたのは、血で染まった俺と、俺に握られた血だらけの小烏だけだった――――。

 

 

 

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