俺は…何をした?なぜテンは倒れたんだ。
少しずつ落ち着いてくると、俺が今したことを理解し始めた。
おれは、この手で…テンの喉を貫いた。
人を……殺した。
「あ…あぁ…!!殺す気なんてなかったんだ…。嘘じゃない!」
テンの傍に座り込み、俺は呻いた。
「ばーか。何焦ってんだよ…。これはゲームだ。ただゲームオーバーになって現実に戻るだけなんだから。」
…生き…てた?ようやく俺は、この世界はゲームの中ということを思い出した。
そうだった。
これは、ゲームなんだ。
でも、あの手応え、温かさ、血の臭い。
すべて本物みたいだった。
きっと…いや、絶対痛みも本物だろう。
だとしたら今テンは…この人は苦しんでいるはずだ。
俺のせいで……。
テンが呼吸をするたびに、ヒューヒューと音がする。小烏によって空けられた喉から空気が漏れているのだろう。
喉からはまだ、溢れるように血が出てきている。
血が落ちた地面は、まるで飲み込むかのように少しずつ血を吸っている。
吸った部分は赤黒くなっていて、なんだか生々しい。
俺の手も、服も、顔も、小烏も、テンの血で赤く染まっている。
俺の心[なか]は、人を傷つけた恐怖と、こんな事をしてしまった自分への嫌悪感でいっぱいだった。
偶然か必然か…、目の下に付いた血が頬を伝い、血の涙のようにこぼれ落ちた。
俺はやってはいけないと分かっていたのに、テンの喉から小烏を抜いた。
小烏という栓がなくなった今、その溢れ出る血をせき止めることはできない。
小烏からまた血の雫が落ちた。
小烏が、泣いている……そう思った。
俺が絶望していると、テンが話しかけてきた。
「もう少し、時間がある…ようだな。聞きたいことがあるんだ。」
「……大丈夫…なのか?俺が言うのもなんだけど…。」
「あぁ、気にするな。お前はただ、自分の身を…守っただけなんだからよ…。それより、お前…剣道でもやっていたのか?さっきの突き…すげーよかった。」
「…中学の時、剣道部だった。二年の時に全国大会一位になって以来、ずっとやってなかったけど…。得意なのが突きだったけど、危ないから本当に負けると思ったときにしか使わなかったんだ。」
「じゃあ、その幻の突きを出させた俺は、すげーって事だな。」
軽く笑うテンの声が、静けさの中響く。少ししてからテンの体が透けてきた。
多分、ゲームオーバーになるとこうなるのだろう。
「今回はお前の勝ちだ。でも次に会ったときは、絶対俺が勝つからな。」
そう言い残してテンは消えた。追うように木鉄長棍も消えた…。
残されたのは、血で染まった俺と、俺に握られた血だらけの小烏だけだった――――。