第七話

 


頭の上には青空が広がっているのに、足下には赤い水たまりがある。

テンの血で出来た水たまりだ。

俺のせいで…あの人は……。

いや、これはゲームだ。

分かってる。

分かって、いるのに…。

あの手応え、臭い、生暖かさ。まるで本物だった。


「小烏、泣いて…いるのか?」


右手にある小烏から血の滴が落ちる。

それは小烏の赤い涙に見えた。

服に付いた血はもう消えていた。

でも、手と顔にはまだべっとりと着いたままだった。

ぬるぬるとしていて気持ちが悪い。

…洗い流したい。

その衝動に駆られた。


「水…ないかな…。」


俺は水場を探して歩き出した。

まだ動揺しているせいか、ふらふらと足下がおぼつかない。

何度も、何度も転びながら、ようやく噴水を見つけた。

はじめに手を洗い、罪が流れるように…。

次に顔を洗い、恐怖が流れるように…。

最後に小烏を洗い、事実を流そうとした。

しかし、その手に残った感触はどんなに流しても消えなかった。

小烏を少し掲げてみた。

光に反射して鋭くひかる。

俺は何もすることが出来ず、何かをする気にもなれず、ただぼうっと噴水の淵に座っていた。


どのくらいの時間がたっただろうか。

突然何かが鳴りはじめた。

最初は何が鳴っているのか分からなかったが、しばらくして自分の手首に着いている物からだと気づいた。

時計のような機械の画面が点灯している。

ボタンは側面に四つ。

前面に一つ。

そして回転させて操作するものもあった。

無意識に、俺は前面のボタンを押していた。

すると3D映像の女性が目の前に現れた。


「初めまして。私は十人の守護者の一人、アキノと言います。先ほどナツキさんが倒されましたテンさんはランキング35位の方でした。その方に勝利したあなたを新たな35位となることを認めます。これは、たとえ本人の意志に反していても変更は出来ませんのでご了承ください。なお、このランク入りはゲーム参加者全員に公表されます。これからはたくさんの参加者があなたを襲うでしょう。常に周囲の様子を注意した方が賢明と思われます。以上で私からの報告、注意は終わります。何か質問はありますか?」


…一方的だなぁ。何かを話す隙もなかった。


「いや、ない…です。」


「そうですか。では私はこれで失礼します。またの機会にお会いしましょう。」


そう言って彼女は消えた。

嵐が去った…気がした。

もう今日は疲れた。

ここから出たい。

そう考えてようやく、俺は大切なことに気づいた。

ゲームからはどうやって出るんだ。

…焦った。


「…さっき聞いておけば良かった。」


そうつぶやきながら俺は手首に着いている機械をいじりはじめた。

もしかしたらこれにゲーム終了のヒントがあるかもしれないと考えたからだ。

左下、左上、右下、そして右上のボタンを押す。

すると目の前に画面が出た。


「ゲームを終了しますか?…ビンゴ。」


迷うことなくYesを選択した。

周囲の景色が変わる。

そしてこちらに来るときと同じ、流星が流れていくみたいな所にきた。

あぁ、やっと帰れるんだな。

そう思って目を閉じる。

目を開けばみんなが居るはずだ。

きっと…あいつらが…。

 

 



しかし、本当のゲームはまだ始まったばかりだった――――。

 

 

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