俺は、無意識に気付いていたのかもしれない。あの夢をみた時、俺はすでに分かっていたのかもしれない。
先生=テン と言う事に。
先生が自分の正体を明かした後、俺と先生は屋上に向かった。
いつもは閉鎖されているため、生徒だけでなく教師すら近づかない。
煙草を吸いにやってくる奴らも、今日は誰もいない。
教室から屋上に向かう途中、俺たちは一言も言葉を交わさなかった。
この後起きる事が予想できていたから。
『殺戮ゲームが始まる』、『死を待ちかまえている死神がいる』
メールに書かれていたこの二つ。
そして、現実世界にもかかわらず、見えているCN。
これから、現実世界での殺人ゲームが始まるんだ。
しかも、ゲームオーバーになっても『リトライ』など出来ない。
自分の『命』を賭けたゲームなんだ。
でも、何故あの先生が殺人を拒否しないんだ。
何故俺は、逃げもしないで大人しく先生について行っている……。
理由は簡単。
『ワ ク ワ ク し て い る か ら』
これから人を殺すのに、なんだかワクワクしている。
それはとても小さい物だけど、俺の足を動かす糧にはなっているらしい。
そうする何かが、あのゲームに組み込まれていたのだろうか。
…俺は一度しかプレイした事がないから症状は軽いが、何度かプレイして居るであろう先生には、心を支配できるほど
大きい物になってしまったようだ。
だって、目の色が変わってる。
いつもの人なつっこい瞳ではなく、獲物を狩る飢えた肉食獣のような瞳をしている。
…ターゲットは俺か。
「着いたぞ」
短くそう言うと、先生は扉を開いた。
オレンジ色の光がまぶしくて、おもわず眼を瞑る。
平気だったのか、先生は怯む事もなく歩き出す。
俺は立ち止まって光を遮りながらそれを見る。
先生と俺の距離が広がっていく。
振り返った先生はにやりと笑って言った。
「さぁ、ゲームを始めようか。名月」
望まないゲームが今、始まる―――――。