先生は突然右手を左手にたたきつけた。
すると、テンの武器『木鉄長棍』が音を立てて現れた。
「何している。お前も早く出せよ、小烏を」
驚いた。
CNが表示されるくらいだから、まさかとは思っていたが…。
とりあえず、今は驚いている場合ではない。
俺も真似て武器『小烏』を出す。
「よし、ゲームスタートと行こうか」
俺と先生は同時に踏み込み、互いに近づいた。
横に大きく振った先生の足を狙った攻撃を、上に跳んでかわす。
そのまま先生に刀を振り下ろすと、ガキィン!と言う音がした。
木鉄長棍で刀を受けられたのだ。
力で押そうとす?るが、全く動かない。
「なんで…何でこんな事になったんだよ」
「…彼女に誘われてやり始めたV・F・G。やる度に止められなくなっていた。気付いたらランキングにも入ってて…。そ
れからだ。たくさんのやつが俺に勝負を挑んできて、それを倒す。でも、少しずつ嫌になったというか…新しい風が欲し
くなった。初心者を育ててやるのも面白いかもしれない。そう思った。今時居ないよなって諦めてたら、お前が来た。
あんな事になるなんて思わなかったんだがな…」
「先生…」
「もうダメなんだ…。誰にも変えられない」
辛そうな顔をした先生は何気なくグラウンドを見た。
そしてある一点を見て、驚いた顔をした。
何だろう、と俺も見ようとした途端、先生が再び俺に襲いかかってきた。
「油断大敵だぞ、名月」
口元を歪ませて笑う先生は、いつもの先生とまるで別人だった。
「俺は、先生とは戦いたくない!」
「それは無理だ。この戦いは誰にも止められない。例えそれが知っているやつでも、大切な人でも、俺たちは殺し合わ
なけりゃならないんだ」
なんでそんな辛そうに言うんだ。
ギリギリで攻撃をかわした俺は、心の中で呟いた。
その時、誰かの叫び声が聞こえた。
「…あっちの勝負がついたみたいだな」
「え?」
悲しそうな顔をした先生は小さく言った。
吹き抜けた風に、微かに血の臭いが混じっていた―――――。