第十五話

 

 

 

 

 

俺が…先生を殺した…。

俺が…この手で!

俺の頭がその事を認識してくると、次第に体が震え始めた。

「げほっ…。」

「!先生!!」

先生はまだ生きていた。

今から病院に連れて行けば、間に合うかもしれない。

「ばーか。何で俺より痛そうな顔してんだよ。」

「先生…俺…っ!」

「お前は悪くない。これはゲームだった。それだけだ。」

「今、救急車を呼ぶから「無駄だ。」」

慌てて携帯を取り出す俺を、先生は短い言葉で止めた。

「俺はもう…助からない。だからせめて、お前と少しでも話がしたい。」

俺は静かに先生の隣に座った。

「沙羅に会ったら、伝えて欲しい…。俺は、幸せだったと…。そして、お前を幸せに出来なくて、すまない、と。

あいつの事だから、俺を殺した奴を、絶対探しに来る。その時でいい、伝えてくれ…。」

「分かった…絶対伝える。…。」

「俺が死んだら…お前はここを、去れ。周りの様子を、見た限りでは…俺たちの事は、見えていない。ここを離

れれば、その目隠しのシールドも、とれるだろう。お前は…生きろ。人殺しに目覚めた奴ら、なんかに…殺さ

れるんじゃないぞ…。」

「うん、分かった…。分かったから…もう喋らないでくれよ。」

涙が流れ始めた。

少しずつかすれていく先生の声に、もう死ぬんだと思い知らされた。

自分がやったんだ、と改めて分かった途端、涙が溢れて止まらなくなった。

仰向けに寝ていた体を、先生はゆっくりと起こす。

そして俺の頭に手を置いて、軽く握った。

いつもの先生の顔で、泣くなよと、にかっと笑う。

「俺はお前の担任で嬉しいぞ。」

ふらふらと歩いていく先生を、俺は座ったまま見る。

「これからお前はいろいろ大変だし、辛い事もたくさんあるだろうけど…負けるなよ。」

屋上の端に立ち、振り向く。

まさか…と、俺は先生に向かって走り出す。

「お前を殺さずに済んで、よかった。」

にかっと笑って、先生は後ろに倒れていく。

後少しのところで、俺の手が先生の手をかすめるが、掴めない。

そして先生は落ちていった。

先生の最後の笑顔が、目に焼き付いて、離れない。

止まらない涙、空を掴む右手。

助けられた命を、助けられなかった自分。

「あ…、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

誰もいない学校に、俺の声が響く。

小さく聞こえた、何かが落ちた音。

「こんなこと…望んでないのに…!!」

コンクリートの地面に、頬から伝った涙が落ちる。

先生…約束は絶対守るから…。

だから……見ててくれよ、先生。

 

〜久遠 天馬    死去ゲームオーバー

 

 

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