第十六話

 

 

 

 

 

先生が屋上から飛び降りた後、しばらく俺は動けなかった。

自分の無力さを改めて知らされた感じがした。

もし俺があの時先生の行動に気付いていれば、あるいは止められたかもしれない。

でも、例え止められたとしても本当に先生は死なないと言う保証があるのだろうか。

このゲームは殺戮ゲームなんだ。

俺が生かしても他の奴が殺しにやってくる。

そりゃ、先生がそう簡単に死ぬわけはない。

でも、やっぱり人間は死ぬんだ。

病気で死ぬ時もあるし、事故で死ぬ時もある。

そして今回のような、意味のない争いで死ぬ事も……。

とりあえず、今そんな事を考えていても仕方がない。

今すぐここを離れないと、いつ人が来てもおかしくないのだから。

そう自分に言い聞かせる。

自分の足を無理矢理動かす。

俺は行かなければならない。

先生の元には行ってはいけないんだ。

そう、約束したから…。

パタパタという上靴の音が誰もいない廊下に響く。

靴箱で外靴と履き替え、門へ向かう。

学校を出ればさっき起こった全てがなくなるんじゃないかって、少し期待した。

でも、その期待は見事に裏切られた。

「ねぇ、お兄ちゃん。さっき一人殺したんでしょ?僕とも戦ってくれない?」

目の前にいたのは、6歳くらいの少年だった……。

「はぁっ、はぁっ、お、お前……」

「僕もゲームの参加者なんだ。だから君が『テン』を殺したのは知ってるよ」

何故知っている。

そう問おうとすると、子供の方が先に口を開いた。

「このゲーム、誰が誰を倒したのか分かるシステムになってるみたい。ほら、こうやってリストに書かれるんだ
よ」

お前みたいなやつまで、このゲームに参加してるなんて…」

「驚いた?でも本当だよ。僕の頭の上、名前有るでしょ?」

確かに、そいつの言うとおり名前があった。

『タキ』

それが俺の次の対戦相手……。

こんな、子供なのに。

何でこんな事になったんだ。

先生だって、殺したくなんてなかったのに。

自分の身を守るために、仕方なく………。

そう言って俺はまた人を殺すのか。

生き残るために。

俺が何も言わずに突っ立っていると目の前の子供が口を開いた。

「僕の名前は瀧城 凪。どうぞよろしく。お兄ちゃんは?」

「………名月 和。『ナツキ』だ」

「そ。じゃあごちゃごちゃ言うのも面倒だし、始めちゃおっか♪」

なんで、何でこいつはこんなに明るく振る舞っている。

何か、無理してないか?

凪が武器を取り出す動作をすると、目の前には子供には少し大きく分厚い本が現れた。

あれが、武器だというのか?

「これが僕の武器、『ネクロノミコン』だよ。名前くらい聞いた事無い?」
「それって……怪奇作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの一連の作品に登場する架空の書物じゃないのか?」

「うん、そうだね。でも思い出して。これはゲームなんだ。架空の武器が存在してもおかしくはないんだよ?」

「それもあるが…、本が武器になるのか?」

俺はそう問いかけた。

すると凪はにこっと笑って言ったんだ。

「それは僕と戦ってみれば分かるよ、お兄ちゃん」

そういって本を開く。

すると、突然本が輝きだした。


あぁ、また始まってしまうのか。

無意味な人間の殺し合いゲームが……。


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