第十九話

 

 

 

 

 

おい…、うそだろ?

なんでフィートが凪を狙うんだ。

そのままの疑問を、俺に抱えられている凪にぶつける。

すると凪は、悲しそうな顔をして答えた。

『あの魔法陣から離れると、制御する者がいなくなり、フィートが暴走する』と。

冗談じゃない。

何とかならないだろうか…。

そう思い、思案している時だった。

泣き声が聞こえた。

「こんな時に何泣いてる!」

フィートの攻撃を避けながら凪に聞く。

「もういいよぉ。僕の言う事聞かなくなったフィートは誰にも止められないんだ」

何を諦めている。

「僕が死んだらフィートだって消える。だから…」

諦めるなよ。

「僕を…フィートに差し出して、お兄ちゃん」

勝手に決めるな。

「僕が死ねば、お兄ちゃんは助かるんだから」

「馬鹿な事言うな!」

思わず怒鳴ってしまう。

だってこいつが、本当に馬鹿な事を言うから。

「まだ俺に抱えられるくらいチビなくせに、死ぬとか勝手な事言うな!」

「いいんだ…。僕が死んでもパパもママも、悲しんだりしないから」

悲しく笑うと、凪は自分の事を話し始めた。

医者と弁護士の親を持ち、いつも家に一人きりの事。

たまに休日が合って両親が一緒にいると、いつも喧嘩をしている事。

そして…、親に「いらない」と言われた事。

その言葉にショックを受けて家を飛び出した時、V・F・Gに会った事。

こんなに小さい奴が、何でこんなに悲しい思いをしてるんだ…。

あまりにも驚く事を聞かされ、動揺する。

それが足にも影響したらしく、ぐらりと体が倒れていく。

ギリギリでフィートの攻撃を交わしたが、次の攻撃には間に合わない。

もうだめだと思った時、小脇に抱えていたはずの凪がいなくなっていた事に気付いた。

フィートの傍に、凪がいた。

「馬鹿!さっさとこっち来い!!」

「お兄ちゃんは、もう疲れて動けないでしょ?だから、もういいんだ」

少しだけ笑って、凪が言った。

「僕が死ねば、お兄ちゃんだけでも助かるんだから…」

そうじゃないだろ…?

「それに僕は、『いらない存在』だから」

待てよ、おい。

「お兄ちゃんは、もっといっぱい生きてね」

やめろ、やめてくれ!

「フィート、僕を…燃やして」

エメラルドの瞳だったフィートは、今は真っ赤な瞳をしている。

そんなフィートに、凪はそう言った。

フィートの羽が動く。

これで最後だ、とでも言うように。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

俺が叫んだと同時に、凪がいた場所に火柱が立った。

火柱が立つ寸前に、「さよなら、優しいお兄ちゃん」と凪が言った気がした。

〜瀧城 凪    死去ゲームオーバー

 

 

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