第二十話

 

 

 

 

 

なんなんだよ、これ。

なんでこんな事になったんだよ。

殺したくなかったのに…。

救いたかったのに……。

先生も、凪も……どうして!

広島の平和記念資料館にある階段に残った影みたいな、そんな跡が凪の居た所に残っていた。

それ以外は何も、そこに残らなかった。

凪が居たことなど分からないくらい何も残らなかった。

凪が消えると共に、フィートは苦しそうな鳴き声を上げながら消えていった。

俺は誰も救えないのか?

俺のこの両手は、何も掴むことなど出来ないのか?

俺はなんて…無力なんだ。

自分で自分を責めても、誰も気にとめてなどくれない。

ここには誰もいないのだから。

「先生……、凪……。俺、どうしたらいいんだよ……」

気付いたら口にしていた言葉。

それは迷いだった。

二人は生きろと言ってくれた。

でも、俺はそんな二人を見殺しにした。

ホントに、こんな俺に生きる価値など有るのだろうか。

俺が死んだ方がよかったんじゃないか。

先生には大切な婚約者だっていたんだ。

それに、凪だって……まだまだ未来のある子供だったのに。

どうして俺なんかが残ったんだ。

どうして自分の心臓を、小烏で貫けなかったんだ!

弱い。

弱くて、醜い。

なんで俺はこんなに生に縋り付いたんだろう。

いくら考えても分からなかった。

気付いた時には、俺は河原にいた。

右手に持っていたはずの血だらけの小烏は、いつの間にか消えていた。

ボーっとしたまま座り込み、水底を眺める。

別に意味など無い。

ただそうしたいだけ。

お世辞にも綺麗とは言えない川だったけど、醜い俺を映すには丁度よかった。

「なんで生きてるんだよ、お前」

水に映った自分に問いかける。

「……っ、お前が死ねばよかったのに!」

右手で小石をつかみ取り、水に映った自分の顔に投げつける。

波紋で顔や体が歪む。

俺は醜い。

未来有る二人を殺しておいて、のうのうと生き延びてる俺は……醜い。

いっそこの川に飛び込んでしまおうか。

そう思った時、ふと先生の言葉が浮かんだ。

「お前は…生きろ。」

なんでだよ。

「お前を殺さずに済んで、よかった。」

俺は先生を殺したくなかった!

約束、守るって言ったけど……。

俺、守れないかもしれない。

だってこんなにも……俺は後悔してるから。

先生や凪を殺したことを、こんなにも悔いているから。

なぁ、先生。

なんであんたは俺に生きろって言ったんだ?

教え子だから?

どうなんだよ先生……。

教えてくれよ!

もう一度笑ってくれよ!!

もう……やだよ。

無意識に瞳に涙が溜まり始めた頃、沈黙を破るように携帯が鳴った。

ゲームはまだ、終わらない―――――。

 

 

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