第二十二話

 

 

 

 

 

「ただいま…。」

静かな我が家に、俺の震えた声が響く。

幸いにも、母さんは買い物にでも出かけているみたいだ。

今、家の中には誰もいない。

俺しか、いない…。

いくら決意したって、人を殺したという恐怖が抜けたわけじゃない。

しかも、その一人は俺の担任。

もう一人は幼い少年。

あの感触、あの生暖かさ。

一生忘れられない、あの嫌悪感。

俺はこれからずっと、ゲームが終わるまで感じなければならない。

耐え、られるだろうか…。

無意識に自室に戻り、テレビをつける。

リビングにある物より少し小さめのテレビが、徐々に音を出し始める。

見るわけではなく、ボーっとそれを聞いていた。

「臨時ニュースです。本日、和崎蔵学園高等部にて死体が発見されました。和崎蔵学園高等部の数学教師、
久遠 天馬さんの物と思われます。自殺との事ですが、身体に数カ所刃物で斬られた後があり、他殺の可
能性が強くなっています。そして、学校近辺にて何かが焦げたような後も発見され、原因を調査中です。有力
情報をお持ちの方、今すぐ下の番号にご連絡下さい。」

身体が、凍った…。

先生と、凪の事だ。

犯人は俺…。

俺なんだ……。

確かに血は消えたけど、死体が消えるわけない。

発見されるのも時間の問題だとは思っていたけれど、こんなに早いなんて…。

思わずテレビを乱暴に消した。

聞きたくなかった。

人を殺す覚悟をしたくせに、人を殺した事を認めることがこんなに怖いなんて思わなかった。

俺は……弱い。

気付いたら、俺は震える右手で携帯を掴んでいた。

見つけたのは、柊平の名前。

でも、こんな事言える分けない。

言ったら俺は…二度と柊平の前で笑えなくなる気がした。

結局俺は、もう一度携帯を閉まった。

そして、少し血が付いたメモを取り出す。

先生が飛び降りる寸前、先生が落としていった物らしい。

俺が気付いた時には、足下に落ちていた。
「柳 沙羅  ××市○○○○15-4 △△アパート205号」
メモにはそう書かれていた。

沙羅さんと言えば、先生の婚約者。

会いに行けって…言う事だろうな。

明日……、明日学校は休みだったはず。

明日、沙羅さんに会いに行こう。

彼女に真実と、先生との約束を果たしに。

そう思いながらベッドに沈むと、緩やかに意識が遠のいていった…。
「ここ、か?」

目の前の表札には「柳 沙羅」という文字が。

間違いない、ここだ。

俺は緊張した手でチャイムを押す。

「はい?」

「あ、あの!俺、天馬先生の生徒の名月っていいます!」

「!!ちょっと待ってね。」

ガチャガチャ……カチャ

「どうぞ、上がって。」

「……はい。」

断るわけにもいかず、彼女の親切に素直に従った。
女の人の部屋にはいるなんて、生まれて初めてだな…。

そんな事を考えながら、きょろきょろと部屋を見回す。

沙羅さんはお茶を入れに、部屋を出て行ってしまった。

棚の上には、先生と沙羅さんの写真があった。

二人とも、とてもいい笑顔で笑っている。

……先生。

「お待たせ。おかしとかないけど、ごめんね。」

「いえ、お気遣い無く。」

「それで…。天馬の生徒さんが私になにか用?」

「……先生に伝えてくれと頼まれた事を伝えに来ただけです……。」

「ホントにそれだけ?」

「…………はい。」

ふぅ、と沙羅さんはため息をついた。

そして、今までの優しい目とは違う鋭い目で俺を見た。

「質問を変えるわ。貴方、裏ゲームの参加者でしょう?」

「…はい。」

「率直に聞くわ。天馬を殺したのは貴方?」

冷や汗が流れた。

本当の事を言ったら、きっと沙羅さんは俺を殺そうとする。

そんな事になったら、俺も自分を護るために武器を取らなければならない。

出来れば、無駄な戦いはしたくない。

それに、この人は先生の婚約者。

死んで欲しくないし、殺したくもない。

でも……、きっと嘘をついても気付かれてしまうだろう。

なら、どんなに残酷な事でも……俺は言うべきなんだろう。

「……その前に、先生に頼まれていた言葉を伝えさせてください。」

「…いいわ。天馬はなんて言っていたの?」

『俺は、幸せだった…。お前を幸せに出来なくて、すまない。』と……。」

「……そう。貴方は天馬の遺言を聞いたのね。」

「…っ、はい…。」

「これから私がしようとしてる事、分かるわよね?」

「…敵討ち、ですか」

「頭のいい子は嫌いじゃないわ。さぁ、行きましょうか。もっと広い場所へ。」

……すみません、先生。

俺はこれから、貴方の大切な人を傷つけます。


俺は、静かな怒りを背負った沙羅さんに、無言で着いていった。

 

 

ゲーム、再開―――――。

 

 

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