episode 1

 

 

「いってきまーっす!!」


街の小さな家を飛び出し、少年は走る。
体中にドライバーやスパナのようなたくさんの工具を身につけている。
彼はの名はガリス。
身を紡ぐ者の見習い職人だ。
右手には、先ほど母親から預かったパティを持って…。(パティとは薬草を入れて作ったナンのようなパンの事)


「おっ、ガリス。美味そうなもん持ってんじゃねーか!」


ガリスは声のした方を向いてみる。
そこには顔見知りの父の友人がいた。


「おじさん、こんにちは。そんな事言ってもこれは上げられないよ。リシィの所に持っていくんだから!」
「へー、ふーん。……若いのに熱いねぇ」


にやにやと笑いながら口元の髭を撫でる。
その表情と動作に、ガリスは男が勘違いしている事に慌てる。


「別にリシィとはそう言う関係じゃなくて…あいつは相棒だよ!!」
「分かってるよ。ちょっとからかっただけじゃねーか。ハハハハッ」


そう言って、男は大きな声で笑い出す。
冗談で言っていると分かっているのに、反応してしまった自分。
もっと大人にならないと、と心の中で人知れず誓う。


「じゃあ僕、急いでるから!」
「おう、気ー付けて行けよ〜」
「大丈夫だよ、すぐそこなんだから」
「お前の場合、何もないところで転けるだろ?」
「そ、それはリシィだよ!!」


またハハハッと笑って去っていく男。
してやられた、という顔をするガリス。
彼はまだまだ大人にはほど遠いようだ。


からかわれた事に腹を立てつつ、先ほど向かっていた目的地へと再び走り出す。

時々すれ違う人達に挨拶を忘れない。
彼らは皆、自分の先輩に当たる者達なのだ。
教える事はなくても、教わる事はたくさんある。
技術に関しても、心に関しても。
そんな彼らへの尊敬の心を、ガリスは忘れない事を心がけていた。
自分にはない物を持つ人を、素直に褒め称える。
それは誰にでも出来る事じゃない。
そんな彼だからこそ、街中の人から大切にされていた。


そして、彼が向かうところには…。
身を紡ぐ者の見習いの彼の相棒がいる。
二人の紡ぐ者が揃わなければ、一つの「人」は作れない。
だからこそ、彼も捜した。
自分と相性のいい、相棒を。
ただそれが、幼馴染みの彼女だっただけ。
幼い頃から何度もあっていた、リティシアだっただけ。
お互いにまだ見習いだが、毎日少しずつ練習している。
「人」ではなく、小さな「動物」を作っているのだが、それなりに上達していると本人達は思っている。


リティシアの家には、その第一号がいる。
人間界にいるような動物ではない為、リティシアが飼う事になったのだ。


気付けば目的の家の前まで来ていた。
家の門にあるチャイムを押そうとした瞬間…。


「チィィィィ!!」
「うわっ!?」

 

 

 

 

 

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